『町人貴族』

Le Bourgeois gentilhomme

台本/モリエール
音楽/リュリ
ジャンル/コメディ=バレ
初演/1670年

解説

1670年10月14日シャンボールの王の祝祭にて初演された。シャンボールで数回上演された後も、サン=ジェルマン=アン=レイでも数回上演され、11月23日、パリの一般観客に披露された。宮廷での上演と同じく豪華な衣装やバレを伴っての上演であった。この作品は、前年(69年)九月にトルコがヴェネチアに対して勝利し、フランス人のトルコへの関心が高まっていた。ちょうどフランスとの友好関係を回復しようとして、トルコ帝国は密使をフランスに送った。この密使をトルコからのヨーロッパで最初の大使派遣と勘違いして、大々的な歓迎の場を用意したが、途中で密使が大使ではないことに気づくという大失態を宮廷はおかしてしまう。憤懣やるかたないルイ14世がリュリにトルコを愚弄するような作品を作るように依頼したというエピソードは有名である。王の依頼を受けたリュリとモリエールがトルコ通のダルヴィユ騎士の協力を得て作ったのが、この『町人貴族』である。

第一幕

裕福な町人のジュルダンは貴族になりたくて、ダンスを習ったり,哲学教師について学問をしたり、剣術を習ったり、貴族に見えるように「頭のてっぺんからつま先まで、本物の貴族みたい」に見える服装を仕立て屋に作らせる。音楽教師が弟子にセレナーデを披露させ、貴族がしているように音楽を習うことを勧める。ダンスを知らないから「足を踏み外して」戦争になるとか、音楽を習えば「みんなの調子を合わせる」ことができて、世界中が平和になるとか、訳のわからない話になる。
 音楽教師が作った羊飼いの愛を主題にした対話形式の曲が歌われる。
今度はダンスの先生が作品を披露する。四人のダンサーが、さまざまな動きやステップを披露する。これが第一幕間劇となる。

第二幕

貴族たちは屋敷で毎週のように音楽会を開いているという話を聞き、ジュルダンもやってみようということになる。メヌエットを用意しているというダンス教師の話に、ジュルダンはメヌエットは得意なんだと喜び、一緒に踊る。貴族風の挨拶の仕方を教えてもらっテいるところへ、剣術指南が入ってくる。
 剣術に比べたらダンスとか音楽は何の役にも立たないという剣術指南に二人が怒り出し、けんかになる。それをとめに入るジュルダン。
 そこへ哲学教師がやってくる。ジュルダンに仲直りさせてほしいと頼まれた哲学教師が三人に、喧嘩などは理性を捨てて情念に身を任せた輩のすることだと言っていたが、最後にはほかの三人を侮辱して、喧嘩になってしまう。
 場面が変わって、ジュルダンは哲学教師のレッスンを受ける。哲学教師が論理学、倫理学、自然学を教えようというが、ジュルダンは難しそうだからと、字の書き方と暦を教えてほしいという。哲学教師はまず文字の本質から学ぶことが必要だとして、母音の発音から教える。
 それが済むと、ジュルダンは身分の高い女性に恋をしていて、ラブレターを出したいから、書くのを手伝ってほしいと頼む。ジュルダンが書きたいのは「美しい公爵夫人、あなたの美しい瞳に私は恋焦がれて死んでしまいそうです」の語順を流行りの順番にしたいので教えてほしいという。哲学教師は、ジュルダンが最初に言った順番が一番いいと言って、ジュルダンを喜ばせる。
 そこに仕立て屋が注文の服を持ってやってくる。貴族のような服を着るには儀式が必要だと言って、仕立て屋は四人の小僧に手伝わせて、さまざまな楽器による演奏のリズムに乗って、着ている服を脱がせ、新しい服を着せる。一人の小僧が「やんごとなきお方様」と呼んだのに気をよくしたジュルダンは、「殿下」、「偉大な殿下」と呼ばれて、次々と小僧たちに祝儀を渡す。
 小僧四人はダンスでその喜びを表し、これが第二幕間劇となる。

第三幕

特別注文の服を着たジュルダンの姿を見て小間使いのニコルは大笑いする。ジュルダン夫人も出てきて、こんな服を着て近所の笑いものになったり、朝からヴァイオリンや歌手のどんちゃんさわぎで近所迷惑になるのはやめてほしいと言う。ジュルダンは哲学の先生に習ったばかりの「散文」と「韻文」の話、母音の発音の仕方などを夫人やニコルに自慢そうに受け売りするが、とんちんかんな話になる。そこへドラント子爵が金の無心に来る。貴族たちは彼を友人扱いしていると見せかけて、返す気のない金を彼から借りている。金づるにしか思っていないことがここで分かる。
 ドラントは、ジュルダンが惚れている侯爵夫人へのメッセンジャーボーイ役も引き受けているが、じつは侯爵夫人の恋人はドラントなのだ。この日は、侯爵夫人を自宅に呼んでダンスと芝居、食事を供することになっている。そこでジュルダンは夫人と娘を邪魔者扱いして、夫人の妹のところに行かせようとする。
 ジュルダン夫人は怪しいと気づき、娘リュシルの恋人クレオントを呼びに行かせる。ところがその日の朝すれ違ったときにリュシルがクレオントを無視したといって腹を立てている。リュシルが出かけていって、恋人の言い争いがあったあと、仲直りする。
 ジュルダンの屋敷に行ったクレオンとは、夫人の勧めに喜んで、ジュルダンにリュシルとの結婚を許してほしいと頼む。ジュルダンの返事は貴族でないなら娘はやれないというものだった。ジュルダンはリュシルを侯爵と結婚させて、侯爵夫人にしたいという。夫人は身分違いの結婚ではリュシルは幸せになれないし、自分たちだって肩身の狭い思いをしなければならないと反対する。貴族でもないのに、貴族を語るのはいやだいうクレオントや、身分違いの結婚をしても幸せになれないという夫人の主張は、馬鹿げたことを夢見ているジュルダンとの対比で、至極まっとうに見える。
 ドラントが侯爵夫人(未亡人)をつれてジュルダンの屋敷に来る。恋人同士の彼らはジュルダンに侯爵夫人を会わせるということを口実にして逢引きの場所にここを選んだのだった。ジュルダンの滑稽な挨拶の後、食事になる。
 饗宴の支度をした六人のコックたちがに踊り、それが第三幕間劇となる。その後、コックたちはさまざまな料理がのったテーブルを運んでくる。

第四幕

ジュルダン、ドラント、侯爵夫人ドリメーヌの食事の場面。余興に歌手が「酒盛りの歌」を歌う。
(男性歌手二人と女性歌手がグラスを手にして、酒盛りの歌を二曲歌う。楽器による伴奏がついている)
 そこへジュルダン夫人が戻ってきて,自分を外出させた隙に、よその女を連れ込んで豪華な食事をしていたといったため、侯爵夫人が怒り出し帰ってしまう。伯爵ドラントも夫人を追って出て行く。夫婦喧嘩になる。
 そこに、ジュルダンの父親の親友で、世界中を旅行し,四日前に帰国したばかりという男(じつはジュルダンの娘リュシルの恋人のクレオントの召使コヴィエルが変装している)がやってくる。彼の話では、ジュルダンの父親は本当は貴族で、取るこの王子がやってきていて、ジュルダンの娘と結婚したがっているとのこと。  クレオントがトルコ王子に変装してやってくる。彼がしゃべるトルコ語はすべてでたらめだが,コヴィエルがそれを適当に通訳する。
(町人のジュルダンを貴族にするトルコ風儀式がダンスと音楽によってなされる。これが第四幕間劇を構成する。ムフティー[イスラム教最高位の大僧正(上の写真を見よ)],修道僧四人、トルコ人ダンサー六人、トルコ人歌手六人、トルコ風楽器奏者たちがこの儀式に参加している。ジュルダンがトルコ風の衣装を着せられて連れられてくる。ムフティーはでたらめのトルコ語(じつはフランク語)を歌う。そのなかでジュルダンにターバンを授けるように言うと、トルコ人たちはジュルダンにターバンをつける。トルコ人たちはサーベルを手にもち、ジュルダンを取り囲んで切りつける真似をする。ムフティーがジュルダンを殴れと歌い、トルコ人たちがジュルダンを棍棒で殴る。
 儀式が終わると、ムフティーやトルコ人たちは楽器に合わせて歌い踊りながら出て行く。

第五幕

トルコ人の衣装を着たジュルダンを見て、ジュルダン夫人はびっくりする。ジュルダンは自分が「ママムーシ」だから自分のことを敬えというが、本人は「ママムーシ」がなんのことかよく分かっていない。ジュルダンが訳のわからないことを喋り歌うので夫人はジュルダンが気が狂ったと思う。
 コヴィエルから話を聞いていたドラントがドリメーヌを連れて、ジュルダンに会いにくる。
 トルコ王子に変装したクレオント、ジュルダンの娘リュシルもやってくる。ジュルダンがリュシルにトルコ王子と結婚することになったと言うと、最初はクレオント以外とは結婚しないといっていたリュシルもクレオントの変装を見抜いて、この人と結婚すると言い出す。そこへジュルダン夫人が現れ、リュシルをトルコ王子と結婚させるというジュルダンの言葉に怒り出すが、みんなが結婚を勧める。コヴィエルがジュルダンの了解を得て、じつはこれはクレオントとリュシルを結婚させるための芝居だということを説明する。事情を理解した夫人は,結婚を認める。公証人を呼んで婚姻証書を作ってもらうことになり、待っている間にバレを見ようということになる。

諸国民のバレ

第一アントレ
ひとりの男が入って来て、バレエ台本を配るのだが、「プログラムをくれ」と音楽にのせて叫ぶさまざまな地方の大勢の人たち(粋な男女、ガスコーニュ地方の男女、お喋りな町人の老人男女、スイス人)にまず煩わされ、次にどこまでもついて来る三人のお節介な人たちに悩まされる。
第二アントレ
三人の厄介者たちが踊る。
第三アントレ
スペイン人が恋の苦しみを主題にした歌を歌う。
第四アントレ
イタリア人が恋の魅力・魔力を主題にした歌を歌う。
スカラムーシュとトリヴランたちが喜びのダンスを踊る。
第五アントレ
フランス人とくにポワトゥー地方の男女がメヌエット形式のパストラル風の主題の歌を歌い、フルート、オーボエの伴奏に合わせて、メヌエットを踊る。
第六アントレ
すべては三つの国の人たちが混じりあって終わる。その場にいる人たち全員が歌い踊り、抽手をして、次のように歌う。

ディスコグラフィ

Deutsche Harmonia Mundi BVCD-1810-11
ラ・プティット・バンド
指揮/グスタフ・レオンハルト
ソプラノ/ラシェル・ヤーカー
ソプラノ/マリヤンヌ・グヴェクジルバー
カウンター・テノール/ルネ・ヤーコブス

ACCORD 472 512-2 Lully ou le Musicien du Soleil vol.IV
La Symphonie du Marais
指揮/ユゴー・レーヌ
ソプラノ/フランソワーズ・マセ、ジュリ・アスレ
カウンター・テノール/ルノー・トリパティ、フランソワ・ニコラ・ジェスロ
テノール/ブリュノ・ボテール、イヴ・グドレ
バリトン/ジャン=ルイ・ジョルジェル
バス/フィリップ・ロッシュ

ALPHA EDV-1857
指揮/Vincent Dumestre
振り付け/Cecile Roussat
演出/Benjamin Lazar
オーケストラ/Le Poeme Harmonique
ジュルダン氏/Oliver Martin Salvan
ジュルダン夫人/Nicolas Vial
リュシル/Louise Moaty
クレオント・哲学教師/Benjamin Lazar
ドリメーヌ/Anne-Guersande Ledoux
ドラント・剣術指南/Lorenzo Charoy
コヴィエル・仕立て屋の主人/Jean-Denis Monory
ニコル・音楽教師/Alexandra Rubner
ダンス教師/Julien Luberk

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