『イポリトとアリシ』

Hippolyte et Aricie

台本/ペルグラン
音楽/ラモー
ジャンル/音楽悲劇
初演/1733年
再演/1742年57年67年

解説

1683年にディジョンで生まれたジャン=フィリップ・ラモーは長年オルガン奏者を続け、その間に「クラブサン曲集」やモテット、カンタータを多数作曲出版した。そしてやっと50歳になって初めて念願のオペラ作曲に手を染めることになった。『イポリトとアリシ』は初演されるとたいへんな衝撃を人々に与え、リュリ派とラモー派の論争を引き起こすことになった。このオペラが与えた衝撃とは何か。それはフルオーケストラの伴奏つきレシタティフであり、合唱の多用であり、協奏曲的なアンサンブルであり、自然描写的合奏曲である。もちろんこれらはフランス・オペラの創始者リュリの死後(1687年)、彼の後継者となったカンプラ、デトゥッシュ、マレ、モンテクレールたちによって徐々に取り入れられてきたものではあったのだが、ラモーにおいてそれらが百花繚乱のごとく花開いたことが、当時の人々の耳にたいへんな衝撃をあたえたのだった。
台本はラシーヌの『フェードル』をもとにしたと言われるが、残念ながらラシーヌの悲劇に見られるような、密度の高い情念と情念のぶつかり合いの様相は薄れ、イポリトとアリシの恋物語に主題がシフトしている。

プロローグ

舞台はエリマントの森。ディアーヌが舞台奥の芝生の王座に座っている。ディアーヌのニンフたちがこの住処の甘美さを歌う。ディアーヌがニンフたちに、愛の神に打ち勝つように勧める。だがいざ愛の神が目の前に現れると、ニンフたちは彼に惹かれてしまう。
愛の神が現れると、愛の神を毛嫌いしてるディアーヌが出て行けと冷たく言うので、愛の神はどこでも自分はひっぱりだこなのに、どうしてそんなにつれなくするのかと言う。ディアーヌはジュピテルに守ってくれるように訴える。
ジュピテルが降りてきて、運命の神が愛の神の勝利をもともと定めているから、それはジュピテルにも動かしえないと説明する。だが愛の神がその支配を享受できるのは一年に一日だけだという。そしてジュピテルはその日は我慢せよとディアーヌに言い置いて天界に戻る。
ディアーヌはニンフたちの心をその支配から解いてやったが、愛の神が主催する祝祭は見たくはない、死に際して自分に希望を託したイポリトとアリシを助けるのは自分の役目と言って、立去る。
愛の神はキューピッドやニンフたちにディアーヌの不在の代償として楽しい祝祭を与えようと言い、歌と踊りのディヴェルティスマンを始める。

第一幕

テゼは、敵のパラスの末裔たちを虐殺した。彼らの娘であるアリシはテゼの宮殿に囚われの身となり、独身でいるという刑を言い渡される。テゼの息子であるイポリトへの希望のない愛に傷ついたアリシは、ディアーヌに仕えようという気持ちになる。アリシが願を掛けに行った寺院のはたで、彼女はイポリトに出会う。イポリトは自分の思いを秘めておくことができない。彼もアリシに愛しているのだ。二人は互いの愛を確認するが、この愛に希望はない。
ディアーヌの女神官たちがアリシをディアーヌの女神官とするために神殿に連れて行く。フェードルがアリシの出家式に立ち会う。だが、アリシはむりやり従わされようとしているのだと反抗する。フェードルが激怒し、何も言わないイポリトを責めるが、イポリトも心を強制することはできないとフェードルに抵抗する。フェードルは二人が愛で結ばれていることを知り、自分がこの神殿の破壊を命じることを避けたければ、言うことを聞くようにと、脅かす。女神官長がディアーヌに助けを求めるとディアーヌが天上から降りてくる。
ディアーヌは邪な心をもつフェードルを諌め、アリシにはどこでも同じ熱意をもって自分に仕えるように激励する。一同がディアーヌの神殿に入ってしまうと、フェードルは自分の思いが邪魔立てされたことに激怒し、二人を殺してしまおうと考える。
そこに,テゼの臣下の一人であるアルカスが生還する。彼はずっとテゼと行動をともにしていたのだが、深淵に消え去るのを見たというのだ。それを知ったフェードルは自分の愛に希望が光が射したとぬか喜びする。

第二幕

舞台は冥界への入り口。テゼの友人のピリトウスがプリュトンに捕らわれ、テゼが彼を救い出そうとして迷い込んでしまう。復讐の女神のひとりティジフォーヌ(テイシポネ)が彼を迎え、ここには希望も苦痛の和らぐときもないと言う。テゼは自分がピリトウスの身代わりになるから彼を解放してくれと頼むが、身代わりなどもってのほかだ。フリアイにとって獲物が一人ではお話にならないからだ。
冥界の王プリュトンと面会したテゼは、ピリトウスが冥界に下りてきたのは固い友情に結ばれた自分を助けるためにしたことだから、彼に罰を与えるのなら、自分にも与えよと言うテゼに、ピリトウスは地獄の最高審判に委ねれると告げる。激怒したプリュトンが王座から降りてきて冥界全体に彼らのために復讐するように呼びかけると、フリアイたち、パルカたち、地獄の神々がそれに応えて歌ったり踊ったりする。テゼはネプチューンに助けを求めるが、そんなことをしても無駄だと地獄の神々が歌う。メルキュールのとりなしで、プリュトンが自分の怒りよりも世界の幸福のほうが大事だと判断して、テゼは冥界から地上に戻るされることになったが、未来を予見するパルカたちが、

お前は地獄の王国を出て、
お前の宮廷に地獄を見出すのだ。

と恐ろしい予言を与える。(下のYoutubeの動画がこの場面)

第三幕

舞台は海辺に面したテゼの宮殿の一部。冒頭でフェードルが近親相姦の愛に突き動かされる自分を助けてくれと母に呼びかけますが、これは少し解説が必要でしょう。フェードル(パイドラ)の母であるパシパエは、クレタの王ミノスの妻で、アリアドネの母でもあります。パジパエは、ミノスがポセイドンから送られた白い牡牛を犠牲に捧げなかったために、ポセイドンから仕返しとして効しがたい情欲の念を吹き込まれてしまい、そのためにこの白い牡牛に欲情し、ミノタウロスを生んだのでした。フェードルは近親相姦の愛に抗することができない自分も、ポセイドンから母が吹き込まれた情欲を受け継いでいると考え、母に助けを求めているのです。
テゼ王の死を知って、フェードルはさっそくイポリトを無理やり自分の前に来させる。そして王座をちらつかせて言い寄るのだが、イポリトは愛するのはアリシ一人だと拒否をする。イポリトが愛するのがアリシだと知ったフェードルは怒りを爆発させて、アリシの命を奪ってやると公言し、フェードルが夫の息子を愛していることを知ったイポリトはあまりの恐ろしさに愕然とする。

フェードル
たったひとつの怪物が彼の怒りから逃れた:
叩きのめしてみよ!この怪物は私の心の中にいるのだ。

フェードルは自分の中に住む怪物を殺せと叫び、イポリトが迷っている隙に彼の剣を抜き取る。それはすぐにイポリトに奪い取られる。そこに死んだはずのテゼが帰還する。剣を手にした息子イポリトが、妻であり女王のフェードルを前にしているのを見て、恐ろしい神託が実現したと驚くテゼ。わけが分からないテゼを前に、フェードルもイポリトも退場してしまう。残されたテゼはエノーヌに事の次第を問いただそうとするが、「忌まわしい愛が」という言葉を聞いただけで、テゼは黙らせてしまう。
民衆がテゼの帰還を祝福し、テゼを送り返してくれた海の神に感謝の歌を捧げる。テゼは海の神ネプチューンに不義の息子イポリトを殺してくれるように頼む。

第四幕

父王テゼの怒りをかい、愛するものを失うことになるのを心配して嘆くイポリトのもとにアリシがやって来る。アリシはイポリトが一人で立去っていくのは、フェードルの憎悪に負けたからだと思って、彼を責める。イポリトは、曖昧な言葉で、フェードルの罪深い情念の秘密をアリシに分からせようとする。二人はディアーヌに二人の愛の守護を願い出る。
狩の女神ディアーヌの支配の下にある狩人たちが出てきて、愛の神の弓矢を畏れず、愛を捨てて、ディアーヌの支配の下で生きることの幸せを歌う。そこへ突然海から怪物が現れイポリトは一人で立ち向かおうとして、厚い雲のなかに消えてしまう。イポリトは命を失い、アリシは失神する。彼女の足下には地獄がぱっくり口を広げている。この恐ろしい光景を見て、フェードルは後悔の念に襲われる。テゼの前で無実を明かしてイポリトの無実と自分の罪を明らかにするから、待ってほしいと冥界に懇願する。

第五幕

テゼは,フェードルの口から,真実を知ったところである.フェードルは毒をあおり、息を引き取ったところだ。無実の息子を死に追いやったことでテゼは深い絶望感と良心の呵責を感じ、海に身を投げて自ら命を絶とうとする。そこへネプチューンが現れ、テゼに世界がまだテゼを必要としていると言って死を止める。また運命の神の意志によって、息子のイポリトは死んではいないが、彼に会うことはできないと教え、海の底に帰る。
舞台が変わり、アリシの森へ続く並木道のある庭園。失神して横たわっていたアリシが妙なる音楽を聴いて目覚める。しかし彼女はイポリトが死んだことを思い出し、絶望に陥る。そこにディアーヌが降りてくる。ディアーヌはこの場所に自分の法を行き渡らせるために新しい主人を選んだと告げ、羊飼いの一団に祝祭の準備をさせている間に、従者の西風たちにイポリトを運ばせる。二人は再会し、喜ぶ。ディアーヌは自分が二人を結びつけたのだから、今後は決して別れ別れになることはないと教える。二人の再会を祝って、森の住民たちが準備した祝祭が始まる。

ディスコグラフィ

ERATO 0630-15517-2
合唱・オーケストラ/Les Arts Florissants
指揮/ウィリアム・クリスティ
イポリト/マーク・パドモア
アリシ/アンヌ=マリア・パンツァレッラ
フェードル/ロレーヌ・ハント
テゼ/ローラン・ナウリ
ディアーヌ/エイリアン・ジェームズ

445 853-2
オーケストラ/Les Musiciens du Louvre
指揮/マルク・ミンコウスキー
イポリト/ジャン=ポール・フシェクール
アリシ/ヴェロニック・ジャン
フェードル/ベルナルダ・フィンク
テゼ/ラッセル・スミス
ディアーヌ/テレーズ・フェガン

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