『プシシェ』

Psyché

台本/モリエール、コルネイユ、キノー
音楽/リュリ
ジャンル/トラジェディ=バレ
初演/1671年

解説

『プシシェ』は1671年1月17日、チュイルリー宮で初演された。チュイルリー宮は、機械仕掛け芝居用にイタリア人舞台装置家ヴィガラーニによって設備を整えられ、1662年に『恋するヘラクレス』(Ercole amante, Hercule amant)で柿落としをした劇場である。前作に引き続き国王の注文作品であるが、その注文とは『恋するヘラクレス』で使われた地獄の場面の舞台装置を再利用することであった。
 『プシシェ』は全体の構想とプロローグと第一幕、第二幕第一場、第三幕第一場をモリエール、モリエールが担当した以外の韻文をピエール・コルネイユ、イタリア語の嘆きの歌以外の歌詞部分をキノー、イタリア語の嘆きの歌の歌詞、音楽、ダンスをリュリが担当している。
 一般観客向けには1671年7月24日にパレ=ロワイヤル劇場で公演が始まったが、モリエールは『プシシェ』公演のために、多額の費用をかけてこの劇場の改修を行った。豪華なスペクタクルによって観客をひきつけ、初演から記録的な大入りとなった。

プロローグ

舞台前方には田舎の風景、奥には中央に開口部のある岩山があり、その開口部から遠景として海が見える。
「[花の女神]フローラが舞台中央に現れるが、木々と果物の神ウェルトゥムヌスと水の神パレモンを伴っている。これらの神はそれぞれお付の神々を引き連れており、ウェルトゥムヌスは[木の精]ドリュアデスと[森の神]シルウァヌスたちを、パレモンは川の神と[泉の精]ナイアードたちを従えている。」
 フローラは世界一偉大な王がこの地に平和をもたらしたから、地上に降りてくるようにとヴィーナスに誘い、その他の神々もヴィーナスと息子キューピッドがいらっしゃるから、恋をしようという歌を歌う。
 ヴィーナスはキューピッドや美と優雅の女神(エジアールとファエーヌ)とともに大きな仕掛けに乗って空から降りてくると、いまや自分は人間たちに忘れ去られ、人間の娘プシシェが自分よりも美しいと崇められていることにたいする激怒を口にする。人間というのはそういうものだという女神たちの慰めにも耳を貸さず、ヴィーナスは息子キューピッドに、その愛の矢でプシシェが「誰よりも卑しく下品で恐ろしい人間」に狂った恋をするようにして復讐してくれるように言い渡す。

第一幕

舞台は大きな町、宮殿や屋敷が見えるところ。プシシェの二人の姉アグロールとシディップは、さまざまの国の王子たちの恋心がみんな自分たちを通り越して末の妹プシシェにばかり向けられるので激しい憤りを打ち明けあっている。二人は気高い誇りとか女としての慎みを捨てて、女のほうから誘いをかけているからプシシェは王子たちの心を虜にすることができるのだろうと考え、自分たちもプシシェのやり方を試してみようということになる。ちょうどそこへ二人の王子クレオメーヌとアジェノールがやってくる。二人の姫は彼らにいろいろ話し掛けるが、かれらはプシシェのことが気がかりで、まったく二人の姫には関心がない。そこへプシシェが登場する。二人の王子はその恋心の思いのたけを告白するが、プシシェは拒否して、二人の姉を選んだらどうかと提案し、四人を怒らせる。
 そこに召使が運命の神々から王に使わされたお告げを知らせる。それはプシシェは山の頂に連れて行かれて、そこへ蛇の姿をした恐ろしい怪物を夫とせよというものであった。

第一幕間劇

舞台は身の毛もよだつ岩山、遠景には恐ろしい洞窟が見える。悲しみに打ちひしがれた人々がプシシェの不幸を嘆いている。ある者は嘆きの歌を歌い、またある者たちは悲嘆の気持ちを表すためにダンスを踊る。
一人の女と二人の男によって「イタリア語の嘆きの歌」が歌われる。
この嘆きの歌の合間と最後にバレが踊られる。

第二幕

恐ろしいお告げを知った王は神々の冷酷さを嘆き、苦しみ、悲しみをプシシェの前でさらけ出す。プシシェは気丈にもこの運命に耐えるように、神々を侮辱することのないようにと父を諭す。また一緒に死ぬと言う二人の姉に対しては、父を助けるようにと助言する。ところが二人の姉はプシシェが自分たちを迷惑がっていると勘違いして立ち去る。
 今度は二人の王子が現れ、怪物を退治するか、プシシェの
後を追って死ぬと言う。プシシェは二人の姉のために生きて
ほしいと言う。そのときプシシェは[西風の神]ゼフュロスに
よって空中にさらわれる。(左の絵は、プシシェを空中にさらう場面のもとになった1650年上演の『アンドロメード』第二幕より)

第二幕間劇

舞台は壮麗な宮殿。これはキューピッドがプシシェのために用意したもの。六人のキュクプロス[ウルカヌス(火と鍛冶の神)の下で働いたとされる一つ目巨人]が四人の妖精とバレを踊る。妖精たちが運んできた四つの大きな銀の水がめに、巨人たちは最後の仕上げをする。その間に二回彼らを指揮しているウルカヌスが、愛の神キューピッド様に頼まれた仕事を急いでやるようにとエールを歌う。

第三幕

舞台は第二幕間劇の壮麗な宮殿。これはヴィーナスの命令に反して、プシシェに恋してしまったキューピッドが子どもの姿から立派な大人に姿を変えて、プシシェの心を射止めるために作らせた宮殿である。プシシェの前にキューピッドが現れると、プシシェはたちまち彼に心を奪われる。この宮殿に一緒に暮らしてほしいというキューピッド(プシシェはキューピッドとは知らない)の申し出を受け入れたプシシェが、自分が死んだと思って泣いている父と二人の姉を連れてきて、この喜びを知らせてやりたいと言うと、キューピッドはゼフュロスを行かせる。

第三幕間劇

四人のキューピッドと四人のゼフュロスによるバレ。その間にキューピッドとゼフュロスが、恋の苦しみも愛し愛される一瞬の幸せで報われると恋の歌を二回歌う。
 舞台は別の宮殿に変わる。奥には玄関が見え、それを通してオレンジの木やあらゆる種類の果物の木で飾られた、魅力溢れる庭園が見える。

第四幕

この宮殿に連れてこられた姉たちはプシシェとの再会を喜ぶどころか、プシシェが神々を従えて、すばらしい宮殿に住んでいることに嫉妬を募らせる。二人の姉はプシシェを困らせてやろうと、プシシェを囲っている王子(キューピッド)が何者か分からないということを強調して、プシシェを疑心暗鬼に陥らせる。キューピッドと二人きりになると、プシシェはこの愛する人が誰なのか教えてほしいと言う。キューピッドはプシシェのためにはなんでもするが、二人の愛を失うことになるからと説得するが、プシシェがどうしてもと言い、キューピッドは自らの矢で自分を傷つけてプシシェの虜となったと告白し、姿を消す。それと同時に豪華な宮殿も消え、プシシェはひとり広大な平原の中に取り残される。
 プシシェは絶望して川に身を投げようとするが、川の神に止められる。川の神はヴィーナスが激怒して復讐しようとしているから逃げるようにと勧める。だが、プシシェは死を覚悟する。
 ヴィーナスが現れ、プシシェのために自分の権威が失墜したことに激怒する。母親への義務を果たさないキューピッドにも激怒しているヴィーナスは、プシシェを地獄に送る。

第四幕間劇

舞台は地獄。火に包まれた海は絶えず波打ち、燃え盛る廃墟に囲まれている。波の中央には地獄の王プルトンの地獄の宮殿が現れる。そこから八人の復讐の女神エリニュスが飛び出し、バレを踊る。彼女たちは、神々の中で一番気立ての優しい女神の心に激しい怒りの火をつけたことを喜んでいる。一人の小鬼が危険なジャンプを繰り返し、踊りに華を添える。ヴィーナスの命令で地獄に渡ったプシシェは、地獄の女王プロゼルピーナからヴィーナスへと託された小箱を手にして、カロンの小船に乗って戻ってくる。

第五幕

プシシェはキューピッドを怒らせてしまったことだけを悔い、もう一度会いたいと独白する。そこにプシシェの後を追った二人の王子が現れ、自分たちはキューピッドのおかげで愛の幸せの帝国で暮らしていること、プシシェの二人の姉たちはその嫉妬ゆえにキューピッドに罰せられさまざまな責め苦にあっていることを教える。
 二人と別れたプシシェは、すっかりやつれた自分の姿を見て、もう一度あの美貌を取り戻したいと、プロゼルピーナがヴィーナスにあてた小箱を開けてしまう。煙にまかれてプシシェは気を失う。キューピッドがプシシェのそばに飛んで降りてくると、プシシェを抱きかかえ、プシシェへの変わらぬ愛を繰り返し、プシシェを追い詰めた母ヴィーナスに復讐を誓う。そこへヴィーナスが現れる。キューピッドはプシシェを返してくれるようにヴィーナスに懇願する。それを見てヴィーナスは心動かされ、プシシェを元通りに美しくしてあげるが、キューピッドの結婚相手は自分が選ぶという。自分と母とどちらが正しいかジュビターに決めてもらうことになる。
 ジュピターが登場する。ジュピターはキューピッドを許してやるようにと促すが、ヴィーナスはプシシェが人間のままでいることが耐えられないというと、ジュピターはプシシェに永遠の命を与えて神とすることで解決する。
 全員一緒に仕掛けに乗って天に上る。
仲直りを祝って、神々が楽器演奏、歌、ダンスで婚礼を祝う。アポロンが歌い、神々も一緒に歌う。ミューズたちの歌、バッカスのレシ、からかいの神モミュスのレシ、バッカスの従者のマイナス[酒に酔って狂態の限りを見せる]とアイギパン[半分人間でやぎの足と角を持つ半獣神]のバレ、モミュスの従者であるポリシネルと武装したダンサーのバレ、バッカスのレシ、モミュスのレシ、マルスのレシ、マルスの従者たちの戦闘訓練のようなバレ、全員のダンスとコーラスによるバレ最後の場面。

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